いつごろからだったのか思い出せないが、YouTubeのトップページを開くとアメリカ各地の都市部でホームレスの人々をひたすらインタビューする”Invisible People”という動画がページ上部に頻繁に表示されるようになっていた。「バリーはホームレスでラスベガスの地下トンネルで暮らしている」、「サンディエゴのホームレス女性は住む場所がないことを理由に逮捕された」、「シアトルの橋の下で暮らすこのホームレス女性は常にポジティブでいることを忘れない」、「9才でホームレス、11才で虐待を受けたベニスビーチのこの男性はホームレスになることを選んだと言えるのか?」などのタイトルに興味を惹かれて短い動画をいくつか観てみると、毎回決まった質問を投げかけるインタビュアーとそのインタビューを受けるホームレスの人々を通してアメリカが抱える闇の深さに唖然とした。
「自由の国」と聞くと、「自由を謳歌できる国」という明るいイメージが先行するが、「自由」には代償が伴うことを忘れてはならない。年齢性別に関係なく誰もが夢を追いかけることが許される国は、自己責任の国であり、最低限のセーフティネットさえ存在しないハイリスクの国でもある。そして、アメリカのホームレスはサブカルチャーであり、誰もが「見なかったこと」にしたい問題でもある。ホームレスの人々を「見えない人々(”Invisible People”)」と呼ぶインタビュアーは、100万人以上の登録者を持つYouTubeチャンネルで動画配信を続けることで見えない人々に声と形を与えることに成功している。
番組制作者/インタビュアーのマークさんはリーマン・ショックの影響で自らホームレスを経験しているからか、彼のホームレスに対する眼差しは暖かい。彼のインタビューは「ここはXXXです。あなたはホームレスですね。そのことについて教えてください。」から始まり、「叶えられる願いが3つあったなら、それらは何ですか?」という質問で締めくくられる。ホームレスの人々の願いは「住む場所が欲しい」、「お金が欲しい」、「仕事が欲しい」ばかりかと思いきや、「みんなもっとお互いに優しくなって欲しい」、「平和な世界になって欲しい」、「もっと良い社会を実現したい」と言った答えも多くあり、逆境でもくじけない、自分本位にならないアメリカ人の心の強さのようなものを感じた。
一本だけ動画を観てもらえるなら、ノースカロライナ州、シャーロットのミシェルさんのインタビューを観て欲しい。高学歴であっても不運の連鎖によって仕事や家を失うことは誰の身にも起こり得ることだと思う。統計によると2023年1月現在、アメリカに於けるホームレス人口は58万人。ホームレス状態の人の数は毎年増加している。
(Paul)
Former Social Worker with a Master’s Degree Homeless in Charlotte