夢のなかで、くりかえし降り立つ水辺がある
苔むす森の奥深くに位置する、湖の水辺
そこは標高が高く、陽が落ちるとにわかに命の気配が消え、あたりは孤独に支配される
私は、道を踏み外さないように、と、足元ばかり見て、巡礼者のように歩いている
その湖には、1匹の怪物がいる
群れからはぐれてしまったのか
それともずっと、独りなのか
それはいつもよるべなく
みなもを浮かんだり沈んだりを繰り返している
水辺に佇むと、その大きく黒い生き物の皮膚に浮き出た肋骨が
星々の瞬きをもってしてもなお暗く、鈍く照らされている様子が見える
それは、それ以上姿を見せることはない
その日は、すっかり油断していた。
いつもの水辺、白闇のなか照らされたそれの、ぬるりと大きな背中の稜線を視線で辿っていたら
それがずっと近くで、透き通った湖の底から音もなく、じっとこちらを見つめていた
私とそれの視線が瞬間、交錯した
あっと声をあげて飛び上がるが
逃げ出すことも、目を逸らすこともできない
体に電流が流れたような痛みと、興奮を覚えながら、やや受け入れ難い事実を認めなければならなかった
あれはきっと、自分自身
ほどなくして私は
怪物との邂逅を、待ち侘びるようになった
あれには家族がいないのだろうか
いつからそうして独りなのか
今日はその浮き出た肋骨の数でも、数えてみようか
私は今日もこの狂気と、静かに向き合う
湖の水が枯れ果てるまで
(Maiko)